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誰にも教えたくないレコードを聴く

アマチュア・オーケストラでヴィオラを弾いています。 過ぎ去りし日、森の中でクナッパーツブッシュのブルックナーの「ロマンティック」交響曲を聴いてこの世界に入りました。一曲を徹底的に聴き比べます。

これは本当は誰にも教えたくない曲です。知り合いのヴィオリストの誰に聞いても皆知らないし、録音もおそらく一種類しかないんじゃないかしら。 作曲者からして知名度はほとんどゼロで、本当にいい曲かどうか誰も信じないでしょうから。

この素晴らしいヴィオラ協奏曲との出会いはかれこれ20年程前になります。東京の飯田橋に毎週通っていたレコード屋さんがありました。

自分でもヴィオラを弾くということでなにかすごいヴィオラのレコードはないかたずねたのでした。お決まりのプリムローズ、ターティス等の話が出て、それは知ってるというふうに不満そうな顔をしていると、店主は一枚のレコードをターンテーブルにのせたのでした。

これこそ、旧ソ連のルドルフ・バルシャイがヴィオラを弾いた、ハンドシキンのヴィオラ協奏曲だったのでした。

現代風の難解な曲をイメージしていた私の耳に、古典的ながら憂いを秘め、ヴィオラの全音域が生かされた力強い第一楽章が飛び込んできて、一発でノックアウトされてしまったのでした!

途中で針を上げてもらって即購入したことは言うまでもありません。
 
 



ヴィオラ・パートの魅力を追求する企画、いよいよ本命のヴィオラ協奏曲編です。
コンチェルトともなると、技巧的にかなり難しいところが多くて、自分で弾くのは
厳しいので、専ら楽譜を見ながら聴くことが中心になります。

1 ハンドシキン:ヴィオラ協奏曲
 栄えある第一席はこの曲にしようと思います。



もちろん、交響曲以外にもヴィオラらしさを満喫できる名曲はたくさんあるでしょう。

◎伊福部昭:交響譚詩
 この2楽章は亡き兄へのレクイエム。テーマがヴィオラで示されます。他の楽器に代替不可能な世界です。山田和男/東京交響楽団の演奏で聴きます。伊福部さんの曲では、他にも、「シンフォニア・タプカーラ」「室内オーケストラのための土俗的三連画」を演奏したことがありますが、自分が好きなせいかヴィオラ冥利に尽きるところがたくさんありました。

○コープランド :「アパラチアの春」
 これはホントにいい曲です!通常版と室内楽版があります。冒頭からヴィオラの世界ですし、途中、おしゃれなソロがたくさんあります。

▲芥川也寸志 :交響三章(トリニタ・シンフォニカ)
 またまた邦人作品。1楽章にもパートソロが出てきますが、2楽章子守唄の中間部で主題を弾くところは、日本の原風景そのものです。

△ブラームス:セレナーデ第2番
 これは、ヴァイオリンを欠く変な編成の曲。ヴィオラが弦の最高音になるわけですが、
主役というわけではなく、あくまで木管の曲かな。ちょっと変わった世界です。

×ボロディン:交響的絵画「中央アジアの草原にて」
 行商人が歩くピチカートから始まって、近づいては離れていく2つの主題にうまい具合に絡んでいきます。ヴィオラが生きる世界です。

番外編 ショスタコーヴィッチ:弦楽四重奏のための「エレジーとポルカ」
 これは、本当は弦楽四重奏曲なので番外です。よく弦楽合奏でのアンコールで取り上げられます。
ヴィオラはポルタメント指定のユニークな主題を弾いたり、大変愉快です。
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内声を担当し、ハーモニーをつくっていくのが基本のヴィオラ。低弦の強拍を聞きながら後打ちをしたり、対旋律を担当して音楽に立体感をもたせたりするのが醍醐味です。ロマン派以降になると、ヴィオラの表現の可能性が広がり、寂寥感や神秘性、死の気配などを暗示する旋律をヴィオラが担当することもあります。

8 その他の交響曲
 
まずはブラームスから。若い頃から室内楽でヴィオラにおいしい音符をたくさん書いてきただけあって、4つの交響曲はどれもおいしいと言えます。第1番ハ短調の4楽章で、ベートーヴェンの歓喜の歌そっくりの主題がヴィオラによって提示されます。第2番ニ短調や第3番ヘ長調では、シンコペーションの音型やチェロとからむメロディーでヴィオラらしさが出ています。しかし、第4番ホ短調で最もヴィオラの表現力が追求されます。休符をはさむ切ない冒頭主題を支え、ヴィオラが2部に分かれて掛け合いでハーモニーを作ります。2楽章はヴィオラらしいパッセージが頻出しますが、ヴァイオリンが休んで、ヴィオラが2部に分かれて弾く絶品のパートソロがあります。
ディスクはといえば、第1はフルトヴェングラー/NDR響とヴァント/NDR響、第2はワルター/フランス国立管とシューリヒト/ウィーンフィル、第3はクナッパーツブッシュの何種類もあるライヴとワルター/ニューヨークフィル、そして、第4はワルター/コロンビア響のスタジオ録音が永遠の愛聴盤です。

続いてシューマン。第4番二短調もなかなかですが、ヴィオラが楽しいのは、第3番変ホ長調「ライン」でしょうか。シンコペーションの動きとハーモニーが生きています。第4はフルトヴェングラー/ベルリンフィル、第3は、フルトヴェングラー存命中のベルリンフィルを名指揮者フェルディナント・ライトナーが振ったスタジオ録音が絶品です。

メンデルスゾーンの第3番ハ短調「スコットランド」もヴィオラの曲です。ヴィオラの物悲しいメロディーで始まり、4楽章コーダの朗々たるヴィオラのイ長調の旋律で幕を閉じます。名指揮者クレンペラーはこの唐突な終わり方に異議を唱え、短調のまま終わる別のコーダをつくって演奏しました。第3はずいぶん聴き比べましたが、ミトロプーロス/ベルリンフィルのライヴが圧倒的でした。http://blogs.yahoo.co.jp/guuchokipanten/54608477.html

チャイコフスキーでは、第6番ロ短調「悲愴」です。作曲者が「レクイエム的な暗さ」と語った1楽章の序奏部分はヴィオラが支配します。これは、有名なムラヴィンスキー/レニングラードフィルのDGG録音で。

ドヴォルザークでは、第9番ホ短調「新世界より」の2楽章、弦楽四重奏部分でのDbの伸ばしや、4楽章の民族的なリズム音型が独特ですが、やはり7番二短調でフルートとからむヴィオラのプルトソロ(2本)が印象的です。「新世界」はケルテス/ウィーンフィルのデッカ録音か、アンチェル/チェコフィル、それにフリッチャイ/ベルリンRIAS(旧盤)で。第7はそんなに聴いていないのですが、セル/クリーヴランドがいいと思います。


第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、そして、ヴィオラ。
第3のヴァイオリン的な、ただちょっと音域が低いというだけの役割でなく、
ヴィオラにしか表現できない何かを求めたいものです。

5 ブルックナー
 8番の2楽章スケルツォの主題を弾くのはホントに楽しいですし、同楽章のトリオに静謐なヴィオラのパッセージがあります。4楽章にもヴィオラならではの森の逍遥ともいうべきくだりがあります。
 でもやはり4番「ロマンティック」がヴィオラの曲でしょう。1楽章297小節からのホルンの主題にからむ素晴らしい対旋律はヴィオラならではのものです。また、2楽章では有名なパートソロ、夜の主題があります。この曲は91種類聴き比べたので過去の記事も参考にしてください。
・聞き比べ→http://blogs.yahoo.co.jp/guuchokipanten/54626428.html
・版の種類→http://blogs.yahoo.co.jp/guuchokipanten/50911671.html
・ハース版とノヴァーク版の違い→http://blogs.yahoo.co.jp/guuchokipanten/51225332.html

6 マーラー
 1番「巨人」の4楽章のパートソロはなかなかです。4番の3楽章にも最後に素晴らしいパートソロがあります。しかし、何といっても10番アダージョ冒頭の延々続く大パートソロが強烈です。これはまさにヴィオラでしか表現できないほの暗い世界です。セバスチャンのCDで聴いています。

7 ショスタコーヴィチ
 この人の音楽には、ヴィオラならではのパッセージが満載です。触れればザックリ切れるような音色、ほの暗い冷たさ、は他の楽器には表現できないものです。11番の静かな大パートソロも凄いですが、8番の3楽章、驀進するリズム音型は興奮の坩堝です!11番はコンドラシン、8番はムラヴィンスキーで聴いています。